ロウソクの火を前に
グリーンの衣装の司祭が祭壇にたつと
司祭の左脇の老女が、参列者に語るように歌いかける
ブルターニュの田舎の教会、ロストレネン
素朴なケルトの流れをくむ、ミサが始まった。
パイプオルガンと人びとの合唱が
高くせり上がった石の天井に消え
静かに着席する
冷たく暗い空間に、窓のひかりはいっそう眩しく
右脇の女性が旧約聖書を読み始める
分厚い石壁は、どんなに小さな声も漏らさず
一番後ろの自分に
か弱くも、しっかりと届いてきて
何か、軽いめまいの直前、
足の力が、抜けるような気がしていた。
繰り返される歌とことばのミサがつづく
新約聖書を読み上げながら、司祭が話しかけている
ここに置かれたグラスワインはキリストの血
パンはキリストの肉。
隣にいる、老女がメガネをはずしては
何度も、なみだを拭いている
黒人の子供が、もの心つく前から、しつけられているのか
ひとりで遊び、踊りほうけていても声は潜めている
突然、自分のまわりの人が、皆、握手を求めてきた。
司祭の《 キリストの平穏を 》
我々はひとつだということばから・・・
ここに、風景が軽いものでは
いけないという意味がある
その土地の、そのもので生まれ
長い時間が刻まれた場所でなければ、
かけることばも、うける心も、深く届くことはない。
灰色の雲
散りだしたポプラの葉、
うねった畑と、林の平原が延々と広がっている
ミサの終わりを告げるいくつもの鐘が
この町を離れるまで鳴りつづけていた。