夏草のひとり道で
笛の音が風にのってとどいてくる

都会の雑踏の孤独の中で、
なつかしい曲が風にはこばれて自分を包む

そのまま・・・・
自分の内が静かになる。

水平に長い雲間からの十字の逆光にむかい

生まれてきてから・・・

そんな香りに近い記憶の
それ以前の知らない自分を知るような・・・・

水たっぷりの泥が
乾いた土の肌合いには、
深いなにかが、秘められている。


土に水を混ぜてカベを塗る。
自分の名前に土があり、
土=大地=地球ならば

自分をこえた
最も不変な素材と向き合っていることが、
誇りに思えていた。
そう、
・・・樹は伸びる土
・・・石は硬い土

花を咲かせ、実を結ぶ。これもまた「土」。

しかし今、

その土を生かしているのは、水にあることを

この大気のすべてが希薄な水であることを

お前は水を塗っていたのだと聞こえる。

地・水・火・風・空。
いま、地から水陽へと変わりつつある。

本当のことを言う。

悲しくて悲しくて仕方がない。
身体が冷たくて冷たくて仕方がない。

痛みのない痛みで
おおわれたまま抜け出せない。

悲しい色。

こんなにも紺に魅了されるのは、
紺の世界の中に入り込めば、
少し薄らぐから、

そして青がやさしく美しいから。

青い地表の青い影、
     大樹が天を突いて
       白い息と、踏みしめた砂に、ひとりいる。

ひとりで土を始めた頃彩かで、目がさめるような土を探し続けたものだった。

そのうちに、
  沖縄の朱色の土、
     滋賀のさざなみに似た白土

・・・もっと多彩に、
    もっと強い天然の色合いへの欲望

それから6年が経ち少し気付いて・・・
       8年をむかえた今・・・わかる。

ありきたりな土を受け入れる、
     いま出会っている場所を考える。

かぎられた環境と
     素材の中で
      その声を聴いたとき・・・

どんなに多彩な組み合わせより
         存在があることを
どんなに優雅に仕組んだものより、
         個性があることを

そして代えがたい、
いとおしさを宿していることだろうか?

昨日、琴と琵琶の演奏にふるえて
その深く・・・強く・・・悲しく
   とらえようもなく広い慈悲の音色は
        いわば運命の音といってもいい。

この身体・・・ゆれてあがれ
   さらされ、研がれてゆく渦の中へ・・・

たとえば、
  熱気と冷気の、
    その触れぬか触れたかの境界の一点をさがす。

  漆黒に消えた一筋
        ・・・血と泥

そんなカベは、
   生涯出来ないかもしれないが、

あの琵琶の音の、
   空気をなめて切るような

生粋のひびき・・・
       生粋の壁への夢がある。

具象抽象
デザイン
アート
工芸

自分にはその違いも
自分がどれに属するかもわからない

でも形作られた姿が、人に近くありたいと思う。

伝わってくるものがある。
     何か残るものがある。

やさしくも鋭い線
  かよわくも、ざわめく肌。

いったいこの国は、
どこまで人間の匂いから離れてゆくのだろうか?

砂の一粒一粒を、
    小さな葉の葉脈。

固くしまった木の実の模様を見るとき、

その小さな一粒を巨大にして、
    自分が小さくなって見ていなければならない。

生みだそうとしている、
     自分より大きな壁面をえがくとき

その壁面を
  手の平に載せている感覚で
        見つめていなければならない。

雲ひとつない、
広大な大地に立ったとき、

自分の意味を失わなければならないと思っている。