自分がこの番組に
取り上げられたのは

第8回 【不安の中に成功がある】
と題された2006年の春だった。


当時を思い出すと

この番組は、あの人気を博した【プロジェクトX】の
後を受けたもので、

それに負けないインパクトと
中味を求めたいNHKの意気込みが
ひしひしと伝わってきたことを、よく覚えている。

けれど自分は、

プロフェッショナル仕事の流儀が、
いったいどんなドキュメントなのか
わからないでいたと思う。

と言うのも、

第8回は、まだ放送が一度も始まっていない段階で
取材スタッフが自分の元に乗り込んでいたことにある。

ディレクターが言う

「まあ?、どんな感じかと聞かれましても、なんつうかですね」
「ええ、それは、私にも分かりません」

「なにせ、新番組ですから・・・ええ。」

「それで、こっちとしましては
最初の10人が勝負だと思っていまして、ええ。」

「・・・ですから番組がどういう雰囲気なのか?と言うことも含めて

つまりそれは、私達も分からない訳で、
なんと言いますか、まあ、
この10人で見えてくることになると思っています、ええ。」

「あえて言うなら、プロフェッショナル仕事の流儀という
タイトルがですね、そう言うことで全てです、ええ。」

すっとぼけた感じを終始、装いながら
頭の良さが見え隠れする、独特なディレクターだった。

一ヶ月以上、取材が定期的に続く中

第一期プロフェッショナルの第8回が
徐々に、どんなに重い場所なのかが伝わってくる。

こんな田舎の俺、

ひとつ転べば、
いつ消えてしまうかもしれない俺を
よく取り上げる気になったものだと

嘘でも、いい仕事っぷりを見せたかった。

それを少しでも、
提供したいと思っていたように思う。

ディレクターも真剣に勝負している。
俺に賭けている。

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そうして

満を持して画面に流れた放送は

自分が思い描いていたものとは裏腹に、
まったく地味な、極めて内面的なものだった。

むしろ、

撮影のほとんどをゴッソリ全部、捨てていて

俺の様々なところを
     切り取った感が全くない。

吹けば飛ぶような、
先行きの見えない貧乏集団
地元、飛騨からも弾き飛ばされそうな状況にあって
こっちもそれなりに賭けていたから・・・・
まさにまな板の鯉。

けれどその理由は、直ぐに理解できた。

ディレクターは
徹底的に【仕事の流儀】を追いかけていたということ。

スットボケながら、本筋を見つめ
俺の流儀を探していたということ。

【不安の中に成功がある】

放送は、その一点に向かって構成されていたのだ。
視聴して直ぐは、なんだか悔しかった。

たぶん
10人の中で最も無名で、たぶん最も地味な内容だ

しかし、

なるほどな?・・・ とも思う。

ディレクターが、すっとぼけた表情で
繰り返し言っていた
【流儀】という視点がこの番組の答えであり
彼は不安というキーワードを見つけだして
その目的に、まったくブレがなく
プロの仕事をしたのだと分かる。

エヘヘ、エヘヘと、
のらりくらりとしながら、
彼は真骨(骨の髄まで)NHKマンだったと

そう、思ったものだった。

一方、今だから言えるのは、
あの放送に嬉しさとか満足感が無かった。

あれから10年・・・・

【プロフェッショナル仕事の流儀】は、実に、280回を重ねる。

その特別企画で、
岡村隆史さんが選んだひとりとして

今回まさか再びの、この番組に登場することとなった。

岡村氏はとても気さくで人間的で、正直で
何を話したかと言うより
本音を自然に爽やかに、
限られた時間で向き合えたと思っている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2週間ほど前だった。

「あ?、秀平さんですか、私です、ええ」
「あのですね、まあ、なんと言いますか、」
「いや? ほんとうに今回もあれで、
先ほど、その編集作業も無事終わりまして、ええ、」

「この度は、またまた、お世話になりました、ええ。」

淡々として私情をもちこまない、あの雰囲気で
えっへっへと、笑いながら核心は何も言わない。

あのディレクターである。

現在は、プロフェッショナルのCP、
チーフプロデューサーとなっての電話であった。

その話っぷりから

彼は真骨NHKマンだから
放送はまた、つまらないかもしれない。
そう、思った。

そして俺も、
不安の中に成功があるは、
今も何も、真骨(骨の髄まで)変わらない。

この番組が10年続いたということは、

おそらく、
ディレクターも
必死で走ってきたからこその評価に違いなく

必死で走ってきた俺も
その後は、何かとNHKと関わり
今回の真田丸題字などは象徴的で
一般人にしては、よほどNHKと縁が深い。

そうして

いま
チーフプロデューサーとして
特別企画をまとめている彼と

こうしてまた再び、
同じ番組で再会できたということが、

この10年を計る、いちばん確かな、
ものさしであるような気がして、

今回ばかりは、心から嬉しい(光栄に思う)俺である。

26日、放送になるが
また、奴らしいのであれば
俺は、つまらないと感じるのかもしれないが

NHKプロフェッショナル仕事の流儀から10年を経て

また一歩づつ進みたい。