この今 
穏やかな一瞬の今

変わりない日常の今
なんの変哲もない時のなかで

さくらが咲いている


斜面から浸み出す
生あたたかい湿度が隙間なく充満して
陽射しは
薄っすらとけだるく

さくらが風に揺れている

こうした満たされた風景に
身を置いていることが苦手だった

満開のさくらを
長く見ていられなかった。
さくらが散っている
このうららかな充満に、行き場を失ってゆく気かがした

さくらが散った後。

この今
満たされた後の沈黙の今が
凡庸で苛立つのなら
不満で退屈だとしたら

それは
日常の今を感じられていない
今がきらめいていると感じられない
失っているだけの日常に変わる

さくらは特別なものではなく
日常のきらめきをきっと見せてくれているのだ

一瞬の今
日常の変わらない今の
なにげなさが
どれだけ素晴らしいか。

それを感じられる,まなざし。
変わらない日常を実感出来ることこそ
本物の才能。

そう思う。

そして
そう思う誰かといたら
どれほど時間が安心に変わるだろう

この春。

さくらを眺め
散るさくらを受けていようと思っている。

いくつもの
さくらの苗を植えようと思っている。