フランス、パリでの仕事、

16日空港に着いてから直ぐ電車に乗りかえて、さらに3時間30分

フランス西部のブルターニュへ行ったのは、
             この仕事の素材をさがす為である。


数年前、
同じブルゴーニュ・キャップフレエルの
崖っぷちから見た大西洋の海。

いま、キブロンという町の岩場から再び、大西洋を前にしている。

キャップフレエルのあの時と同じ
真正面から吹き抜ける強い風。

波は風、
風は波。

暖かくもなく、冷たくもなく、ただひたすら波が打ち砕けている。

海は、エメラルドグリーンの乳白色に濁り
真っ白な波が、色濃く荒れては消えてゆく
なんだろう、確か前回も感じた感覚が蘇る

なんだろう、この時間が何処かへ行ってしまう感覚。

ひたすら水平に迫りくる、この海を前にすると、
なにか裁きを受けているような無言に陥ってしまうのだ

心のなかにある願いも、
叶えてきた成果も、
自分の輪郭以外の全部を、
打ち砕いて崩してしまうような

そして乳白色のグリーンが呑み込み
底知れぬ西果ての彼方に沈んでしまう。

しばらく海を眺めていた。

風が手や顔から、波が目から入って
心の奥を砕いたのだろうか?

自分でも開けない心の奥で
これでいいという、ふんぎりを感じたのだ。

さあ、戻ろうと5?6歩あるいて、

もう一度、海へ。

岩場に腐った昆布にかがみ込み
鳥がグレーの雲に飛びたって行くのを見届けると

確かに 一番奥が少し軽くなっていた。

それは宣告を受けたのか、決めたのかわからないが

西果ての、不思議な魔力をもった海に
              救われた気がした。