ジリジリと照りつけていた陽射しから
突然、降り出した雨

それは
不思議な光景に濡れて虚ろだった。


真夏のひかりの空から降る
          大粒の雨

樹の葉に
はじけ飛ぶ水滴と
鳴きつづけている蝉の声のなかに立ちつくして
打たれた雨は

いま、何かを失ったかもしれない雨だった。

雨粒は
火花のように弾け散って
大切に残していた思い出が
         消えゆくように眺めていた

蝉の声は
ずっと自分を守っていた鎖を砕き
別の鎖に、掛け替えられているように響いていた

雨があがると

蝉の声はなく
雨粒も、汗も、吸い込んでしまった地表があった。

青い空のしたで
葉先のしずくが光っている

ぶらりと広げていた手のひら

それは
ずっと握り続けてゆくはずだった手

ずっと開くことのないはずだった
ひらいていた手のひら

雨あがりの静けさに
なにも聞こえなくなっているのかと
音をさがすと

見慣れた景色が
ガラスの向こう側にあるように見えた。