山を歩いて、土を集めてきたから、

自然色と人工色の、
存在感の違いを身体で知ったから

そんな自然色の土を使った肌合いをずっと考えてきた。


ある日、突然求められた東京からの依頼。

東京に似合う土の色と肌って、どうしたらいいだろう?
バーの壁、斬新な切れ味のある壁
モダンで落ち着いたリビング
威厳ある風格漂う壁
地方の伝統的な壁
時を感じる枯れた壁
野のような素朴な壁
見逃してしまうようなやさしい壁。

左官の一番の特性は、素材と水の自由な広がり
自然界のあらゆるものを左官流にアレンジする。

時には、左官技能そのものじゃなくても
左官の考え方を使った、表現が膨らんでゆく
いつのまにか、
左官ならではの自然の庭を作っていた。

興味の目は
自然石に、草花に、植物の繊維、
木肌に、谷の水の流れ、石に張り付いた苔に、
石組み、石の割れ肌、拭き色に光った建具と柱に、漆に。

樹林の枝ぶりに、木洩れ陽に
見落とされてしまった技能に、伝統工芸に、

それらを組み合わせてみる
掛け算してみる
そしてそれらを表した物語りを言葉にかえる。

壁は空間を決める。
空間は、棲む者を明解に表し

同時に、外観(景観)となって風景を決める。

景観とは、
その土地に棲む者の、暮らしの意識の写し
地域の誇りのスケッチとして否応なく現れてしまうもの。

最も世界に発信できるもの。

土壁の中でも、特に京壁は

ワラすさひとつの長さや太さや細かさで・・・・
ワラの分量や分散のしかたや水の量で・・・・
水のタイミングで選ぶコテの鉄の質で、大きさで、塗る厚みで、

砂の分量と大小で
1?の砂の形状が丸いか角ばっているかで、
その肌の違いを吟味する。

ワインのソムリエと同様に
          微妙な違いを目利きする。

左官の素材を見る目、肌合いを見る目は
それぞれの感性で、それぞれの地域で奥深い。

いつしか地元の文化の個性を知り、
   飛騨に対する景観の誇りと愛着心、土地柄を考えるようになっていた。

2年前のこと。

地元の町並みや景観は、《今、これでいいのか?》を
                  テーマにしたフォーラムを行った。

隈研吾さん
黛まどかさん
塩野米松さん
近藤誠一文化庁長官
野崎洋光さん他の

そうそうたる人達に
集まってもらったフォーラム(日本再発見塾)は
           本質に迫った、素晴らしい内容で

わざわざ飛騨まで足を運んでくれた人達が
本音の議論を展開してくれた。

賛同する、会場の人たちも、たくさんあった。

けれど・・・

その成果は、
町の意識と現状に、結果としてそぐわなかった。

デイスカバージャパン、アンノン族、いい日旅立ち、

飛騨は観光ブームに乗って
地方全国の中でも最先端を歩んできた町。

まだまだ観光地として成立し、
           知名度を保てている現状では

町の未来をどんな色に、どんな肌にという
      まなざしが、すれ違っていたのだろうと思う。

たくさんのエネルギーを使ったフォーラムは終わり

それから2年が経って、
その間も、自分なりに考えてきた。

分かってきたのは、

これまで町を作ってきた人たちの思いもあるだろう。
町は、住む者の、物だということ。

町づくりは、外からではなく
そこに住む人びとが、どうしたいか、
どうなりたいかの、まなざしが決めるもの。

ただ、それに尽きることだった。

そんな中で最近、こんなニュースが流れた。

研究グループの報告では、全国の市区町村のうち896の自治体が、
町がなくなる”消滅可能性の危機”という記事

師、小林氏から教えられ
ずっと考え続けてきた「景観と風景」

パリ、ブルゴーニュ、ブルターニュ、NY、アリゾナ、キプロス
そんな旅先で出会う、素材と暮らしを見るたびに
では、自分たちの素材と暮らしの、個性と美しさとはなんだろう?

八ヶ岳マツボックリの野菜蔵
益子町の新しい祭り、土祭(ヒジサイ)の舞台の壁
朝日町の氷雪の壁
雄勝町プロジェクト
東京大学ユビキタス外装(隈建築設計事務所)

これらは、単発のひとつに過ぎないが
左官は風景を作ることができる

8年前から自然林を切り開き
自分のまなざしの夢を作りつづけてきた体験、

いつか、もし、どこかで、

効率性・明確性ではない
手づくりの、町の風景をつくる機会が与えられたなら

まなざしが共有できれば
それがどこか世界の村であっても、

その地域の人たちと考え
全国から無名の職人達も集めよう

その土地にある素材で、自然素材で
斬新なものも生み出してみたい
伝統的なものと、伝統を使った新しいものを配置しよう。

たぶん我々が失ったものは風景に違いない。

借り物でも、コピーでもない、
     その土地の風景を生みだす。

苔むして濡れる石のように、
時間を味方につけて、風合いを刻んでゆく風景

いつかそんな仕事を共有できれば

風景を生み出せば、きっとその町は蘇る
そんなチャレンジを、いつか何処かでしてみたい。