いきつけの酒場で24:00を過ぎると、

挾土さん、代行運転でーすと迎えにくる。

車がきた!と分かるのは、

酒場の扉がガラガラっと開く音ではなく、

馴染みの代行運転手の顔でも、振り子の時計でもない。

常連仲間と並らび座って話している最中?


ギ!・ギー・・・ギイ?ッギキ、ギグッ!ギイイ?・・・っと
向こうから、徐々に大きくなって近づいてくる音。

《 来た!、俺の車だ!》っと、その音は
7秒くらい 、徐々に大きくなって、店の前で停止、

停止したクルマは
ワイヤーが何処かで、こすれ合っているかのような
なんとも首筋が、かゆくなるようなギシュギシュと鳴るエンジン音。

『それじゃあ、車が来たんで 』と常連仲間と別れて
ホロ酔い、助手席に座ってグッとシートを倒して膝を組む

『 じゃあ、頼むね』と運転手に声をかけて

この時、
TOKYO FMの『JET STREAM』(ジェット・ストリーム)が
タイミングよく流れると、帰宅まで10分前後の時間が
何にも代え難い、幸せな時となっている。

・・・ゆったりと緩んでいると。

運転手が、さりげなくつぶやく

『 あの?社長、そろそろ、どんなもんですかねえ・・・』

『 なにが?』

『 ハイ、まあ、あの?、それぞれですから・・・、
ですが、もう十分でしょう』

『 そうだなぁ、けど量的には、そんなに飲んでないんだけどなあ』

ギグッ!ギイイ?・・・
ボッッボボ・・・ボコ・・ボ・ギ?!

『いえいえ、(苦笑)これで結構、人もですね、
振り向いていますし、』

『 それ?・・・目をつぶったとしても
私的には、とにかく足廻りの方が、
かなり、へたってきていると思いまして、はあ。』

『 ああ、これな。』
『 一応、新車だったんだが、ヤッパリ限界だよなあ 』

『 けれど社長、大したもんですよ、
今時、珍しいって言いますか
ここまでやって頂ければ、私達も本人も満足っていいますか、
出来ればデスね、ここら当たりで暇を だしもらって・・・

ああ、すみません余計なこといいまして。 』

事故は一度もしていない、

車でもっとも重要視しているCDは、6年前くらいに壊れたっきり。

前のバンパーは、一度取り替えたがキズだらけ
左後ろのボデイーをぶつけて窪んだ部分は、
内部からザックリ打ち出したまま。

右後方のバンパーは、ネジが外れて
いつだったか車の裏側、金属カバーが何度も外れては引きずるので
挟みで切って捨てたことがある。

この車に、特別な愛着がある訳ではないが
もともと車に執着がないことも手伝って、
まあまあ、乗り心地が悪くなければ、それでよかった俺。

最近では、職人衆からも
『親方よ?、あれだけいろんな人が訪ねているんだから、
いい加減この辺にしといたらどうだあ』
『 だし、いつどこでぶっ止まるか、わかんないっすよ』

などと言われて・・・・

このほど、車を買い換えるとこにした。

それにしても、この車に乗って10年?

・・・《 走行距離、【252715】キロ 》・・・。

まあ、よく使ったものだと同時に
この走行距離に自分自身が重なって見えてくる

東京での打ち合わせに走った日々、
後部座席に毛布を積んで、
新宿御苑あたり、表参道の道路脇で、何度も夜を明かし。

CD機器が壊れてからの2年間くらいだっただろうか

東京でのある物件のトラブル、

洞爺湖サミットと、その他の仕事の波が幾重にも重なり、
右顔面神経麻痺。

その影響で
キリン焼酎の白水の撮影や文化村の個展『土と水陽』の頃から
めまいがはじまり、自律神経が不安定に
高速道路は全く、一般道の運転もおぼつかなくなって
電車移動で東京へ行くようになり、

けれどこの電車移動が、
遠笛ブログの貴重な時間になっていった。

その後、

車の運転は、地元での日常の生活範囲で
せいぜい、時速30km、40km程度のみじかな運転、
そして、ひとり想いを浮かべる、
夜の森のなかでの小さな空間となったオンボロ車

さてさて次なる車は、
『まあ、任せるから、みっともなくない程度のグレードで頼むわ?』
と車屋さんに頼んでおいた・・・・

3月始め、
新しい車がやってきた。
といっても、6年落ちの中古車だが
走行距離、34000キロと・・・・若くういういしい。

最近の俺は、
簡単ではない難題を幾つか抱えていて
それと別に、これまでと変わらぬ以上の仕事の日々。

慌ただしさのなか
車が来て、すぐ乗り込もうとした時!

『 うむ??』『アレ?』

キーがないのである、
というか、キーを刺すところがないのだ。

『これって、キーがないんだけど、どうなってんの?』

車屋が顔をしかめて、溜め息を吐きながら

『あのねえ、社長!』と、トーンダウンの声、

今の車は、ほとんどがワンタッチボタンで、
ここを押せばエンジンがかかるんですよと
渋い顔で説明してくれる。

『ったく、キーも無しでエンジンがかかるなんて、あぶない車だなあ』

などと言いながら、
10年の間に時代が変わっていることに驚く・・・・

それで、
地元に限った、みじかな運転に変わりはないが、
CD機器が動く感動、好きな曲に包まれての運転は
これまでより10km上乗せの50kmの速度を出すことが
できるようになって

如何に音楽が自分を緩め、
自律神経を安定させてくれるものかと
思い知らされる発見だった。

新しい車に変えて、何時もの酒場の24:00
これまでに二度の代行運転を使った。

それぞれの運転手の言葉。

✳︎ 『 とうとう変えてくれましたか、
私も自分の事のようにうれしいです。
ここ一年は走るたびに、どなた様も
立ち止まってこちらを見ていましたので、はい。』

✳︎『 この車、挾土さんでしたか、これいいですよ
十分ですよ、本当、ちゃんと進むというか、スムーズに動きますし、
アレ、前の奴、なというか、エンジンの何処か不完全燃焼というか
爆発してませんでしたもんね』