いつものように若い衆達が、
2階の事務所に集まってくる

夕刻18:15、
紙コップ一杯目、薄めの焼酎が飲み終わったころ
それぞれが自由に、それぞれの距離で俺の前に座る。

この時間は昼仕事の実戦的な話ではなく、
思い付くままに、順序だてしないで

明日や、いつかを、
浮かべるような、
距離のある話をしたいと、意識している俺。


学生だった頃、
いつもは厳しい先生が、
教壇に立って授業をはじめる前の世間話し、

いわゆる余談は
なにが飛び出すかわからない自由さがあり

ここだけの話だと前置きしたあとの
立場を超えたコメントは強い記憶となって
今も、 心に残る事柄がとても多かった。

事務所では、
まず、ひとりひとりに一日の仕事経過を一通り聞いて

さてこれから、
今日はどんな事を話そうかと
二杯目の紙コップを前に置いたときだった。

職人の長瀬が思い出したように

「ところで親方よ?、
西洋室の森にな、妖精がいたって知ってるか?」と言う

「ウム? なに? ・・・知らない 」

「隼平が見たって言いだしてな、
一時は話題になってたんだが、親方知らんかったかあ」と言うのだ。

・・・・《妖精?》《なんだそれ?》・・・・

息子、隼平が話しだしたことは、こうだった。

“ 2年前から昨年の夏頃にかけて、
何日も何回も、蛍をとっては森の湿地に放していたとき・・・・

あの、蝶の家があるところ
その前に4本の樹があって、石の階段があるところ。

みんなで行ったあの時、
なにかそこの奥が、ぼんやり白く光っていて、
なんだろう?って思いながらも、

最初はず?っと、向こうを過ぎる車のライトの
反射かなあ?って思っていた。

それから、また別の日に行ったとき
ふっと見ると、今度は蝶の家のすぐ後ろあたりが
ボア?ンと白く光っていた

けれど、みんなで蛍を放していたから・・・
なにも言わなかった。

ただ、不思議だったのは、
4本の樹の、2本目と3本目の間からだと見えて
1番目と2番目の間、3番目と4番目の間からも、
見えていいはずだけど

その角度からだと見えないんだ。

それで、また日を変えて行ったとき
また、2本目と3本目の間に白い光は立っていて
他の角度から見ると、いない。

もう一度見たら、近づいてみようと思ってたけど
あの夏の夜が最後で、あとは見とらん 。”

・・・・と、こともなげにいうのだ。

それを聞いて俺は、

はあ?っと 頭が《???》になりながら・・・
なにかの見間違いだろうと思いつつ、

『それでお前、その?、それは人なのか?』
『?だし、第一その前に、お前、怖くなかったのか?』と聞き返すと

『いやあ、なんか怖いって、ぜんぜん思わんかった』
『って言うか、なんか凄い、優しい感じがしたから・・・』

なんか、なんかって、
こっちは、ますます《???》になって、

それから20分ほど、
尋問のような質問を、まとめたのが以下である

✴︎その場所は
歓待の西洋室の前庭から見て、少し高みに上った榊の木の前あたり。

✴︎白い光の身長は180センチくらいで、ぼやけたガウンよりも
うつむいて見える顔の部分が、より白く輝いていた。 

✴︎少しうつむきフードをかぶって、
樹林のアプローチの中心部へ視線を落としている。

✴︎顔はわからない、けれど肩の線がやわらくて、
男ではない、たぶん女性。
その雰囲気は優しいっていうか、さみしげっていうか
とにかく、いやな感じがなかったから

・・・・怖いとは思わなかった。

一番弟子の晋作は苦笑いをしながら、言葉少なく
祐一は、不可解な表情をして靴下を手むづっている。

圭太郎は、いや?、俺思うんですけど、
あそこは昼でも特別な空気があって、なんかありますよ、

親方、真夜中でもあんなに、
あそこに行っていて、
なにも感じないっすか? と真顔で聞く。

で、それは?

《お化け》・《幽霊》・《守護霊》・《地霊》などと言っている間に

・・・・・時計を見ると、もう19:40をまわっていた。

それからというもの、この話を
ず?っと考えていて、頭から離れない俺。

あいつは、
そうそういい加減なことは言わない奴。

まして自分の息子であるぶんリアルで
まず、嘘ではないだろう。

しかし、どんなに暗くても、
ひとり頻繁に、あの樹林にいて
不思議な光など見たことはない。

ただ、隼平が言う光の場所は、
もし俺が何かの像を、この樹林内に置くとしたら・・・

西洋室を取り巻く土地全体から見ても、
たしかに何か像を置くとしたら、

そこしかないなあと思う、要のような絶妙な位置。

しかも、たたずむ何かが、
この敷地の中心地を見おろす角度で立つ場所は

洋館の玄関先から、
斜面を少し登ったところで、

その後ろには、自生の榊木があり

前には絶滅危惧種の蝶の小屋があり

その横には、この敷地の唯一の井戸、水源がある
三角点のほぼ中心であること。

話を聞いてから、一週間が経って。

つかみどころのない気持ち悪さがあったが

今なにか、

白い光が、もしかしたら
あの森の、あの自然の《精霊》
のように思え出してきている。

歓待の西洋室はゆっくり、コツコツと進む
まだまだ、遠い道のり。

考えているうちに、
精霊は自分達のものづくりでは
作れないものだけに

・・・・伝説として・・・・

むしろ受け止めていったほうが
いいんじゃないかと、思えている。

今、俺が伝えたいことは、
塗り壁の技能よりも、自然への感受性
土の事を知る以上に、泥臭さ人間臭さのこと。

まーとにかく、
驚かされた突然の歓待伝説に

そういえばと、
あの位置で用をたっしてた事が
過去に数回あったなあ?と思い出して、

この数日は、その位置を通りかかると、
深々と【一礼】をしている俺。

それにしても以前書いたブログ
【到来の仲間達】のひとつとして、ちょっと謎めいて

まあこの森は、豊かといえば豊かで不思議な求心力がある。

ならば、俺もこの精霊があるものとして
見れるものなら見て見たいと、 勇気をもって
夜、出かけるものの、その位置が見られない所までで、ストップ!

以来、まだ、近寄れない俺。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

※ 最後に文中のイラストについて
隼平から聞いて描いた精霊の絵を見せると
これ、まだ怖い感じがする、もっと顔が見えなくて
もっと、やさしい感じだったとの事。