24:30 ・・・寝付けなくて・・・

この数日の自分が思い出せなかったり、
これまではおぼろげに直感できていた数年後の断片が
                   描けない夜に迷い込んでいた。

そんな半鉄骨の事務所の網戸から、
スーッと吹き込む乾燥した冷たい風。


飛騨はようやく春を迎えて、一転、乾燥した晴天、
        一日の寒暖の差が、20℃を超える日が続いている。

5/8 = 《 0℃?19℃ 》
5/9 = 《2℃?31℃ 》
5/14 = 《10℃?31℃ 》
5/16 = 《11℃?21℃ 》

ヨシ!歓待の森へ行こう・・・車に乗り込んだ。

さすがに深夜、
少し離れた1軒家の明かりも消えている
       
この森は集落のはずれで、
街灯もないからあたりは真っ暗。 

出かけたのは
森の中で大切に育てている植物のエリア(200坪ぐらい)に
水撒きをしようと思い立ったのである。

異常乾燥注意報と強い陽射し
     
朝の水撒きを続けていたから、森のアプローチには
            4?50メートルの水ホースがそのままある・・・

蛇口をいっぱいに開いて
まずは石垣の坂道にそって植え込んだ、
小紫陽花の列に散水する。

ここは、黒土がむき出したわずかな傾斜、
水を吸い込みにくい土質だから、

小紫陽花の7?80センチ向こう側あたりが狙い目、
               
散水のしすぎは、黒土を流してしまう。

真っ暗だから散水の水は見えない・・・・ここは軽めに湿らせて次へ進む

左に折れる角に、
今、花盛りの上溝桜(うわみずざくら)が一本ある。

ホースを引っ張りながら、いったん
右45度の方向に奥深く進んで、上溝桜の根元にもどれば
ホースは楕円の余裕をもって絡むことはない。

その斜面に植え込んであるのは
   マイズル草、トリカブトにホトトギス、そしてベニバナイチヤク草。

マイズル草とホトトギスは少々乱暴な散水でも問題ないが、

トリカブトとベニバナは、
水を横から受けると倒れてしまう可能性があるから、
ホースを親指で横に平たく潰して、75度上向きに吹き上げながら散水

たぶん水は扇状に広がって、細かな雨のように降り注いでいる・・・

乾いた枯葉を叩く音が、次第に低く響いて
  地表と腐葉土のあいだを縫って、めぐっている白い根に
        水が行きわたってゆく映像が見えたところで次へすすむ。

つぎの目当ては、
最近、強引に引っこ抜いて植え込んだ、薄紫のツツジともみじである。

移植直後の植物には、広くたっぷりと水を染み込ませたい。

自然石で作った、いびつな階段を
足で探りながらつまずかないよう樹林の中を行くと
オオっと、ホースがピーンと張って、2歩引き戻された。

たぶん、あの上溝桜にホースが引っかかっている

狙いまで、5メートルぐらいだろうか、
この位置からして、散水が届くか届かないかの微妙な距離である。

ヨシ、指先をさらに強く絞って、
ホースの腕をめいっぱい高く上げての上向き散水をこころみる
この態勢のままイメージしている・・・

今、1センチか?・・・3センチくらいだろう?・・・・

たぶん12センチあたりまで染み込んだ

移植したあの時、掘った深さは
20センチ以上だった、土は粘土系かなりの水分を含む土質だ・・・
あと、25秒と決めこんで22センチ染み渡ってゆく水を頭に描く

そんな事を考えていると
いつのまにか右手の袖から脇腹、靴までびっしょり・・・・

水撒きは、この時点で1時間を過ぎてつづく

この森で一番乾燥しているところの
ササユリ、イワカガミ、ツバメオモトの一群をまわり

大きなドウダンツヅジには葉水を吸わせて、

いま一番大切で、
気に留めている蝶の食草、アオイには程よく湿す。

森から見下ろす川をはさんだ、
そのずっと向こうの道を、走りすぎる一台の車
そのライトが暗闇散水を照らすと

扇に広がって噴き出している水の弧を瞬間に見て
思ったとうりだと安心して、蛇口を閉めた。

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春が待ち遠しい・・・・
焦りのような気持ちが一年一年と強まっている自分。
今年の飛騨は、新緑を2週間近くも遅らせて、

山桜が冬枯れの景色に咲き誇っているのが、憎らしくさえ思えていた・・・・。

・・・翌日、いつものように早朝から歓待の森に出かける

いまだ寒暖の差は激しく、気温4℃。

あたり一帯は、薄い霞が立ち込めて、
深夜の水撒きに腐葉土もしっとり落ちついて・・・

クルマバツクバネ草、
ヤマシャクヤク、
オサバグサ、
ラショウモンカズラ
ミヤマカラマツが、次々と花を咲かせようとしている。

夜露に湿った砂を踏む音
しんみりとした静けさを吸い込んだ肺から、
身体が冷たくなって

森の散策は、いつも以上に、せつなくはじまる。