冨永愛が左官に挑戦したい

そんな急な連絡を受けたのは2月。

NHK【仕事ハッケン伝】という番組を行うことになった。

この番組は、
各界で活躍する著名人が
“やってみたかった仕事”に
         

一週間かけて挑む姿を追うドキュメンタリーだという。


・・・・とはいうものの

左官は、最初の基本技能がとても難しく
          簡単に第一歩を踏み出せない仕事。

≪ 厚みのある壁を塗る ≫とは、

掴みどころがなく
計りようも
伝えようもない、
   

感覚と感性を、
時間をかけて積み重ねなければできない技能なのだ。

はたして上手くゆくだろうか?

番組として、それなりの起承転結の展開ができるだろうか?

限られた時間の中で、
       受け入れた自分も真剣、冨永 愛はもっと真剣。

肌寒い飛騨で始まった収録は、
不安と努力の入り混じった

必死な数日間であった。

それで結果は、

冨永 愛は、本当によくがんばって、
         成せば成るを、最低限度の形でもぎとった。

まったく失礼な俺は、
初日の作業が終わった夜、
       
彼女の生きる姿である
華やかなステージを歩く、
        いくつかの映像をはじめて見た。

・・・その印象は・・・

時代を見下ろすように未来的で
      ステージが大きいほどに大胆に、
               
視線から長い指先までを鋭く凍らせて、
誰も立ち入れない自分だけの世界を
           無感情に振りまいているようであった。

ところが、

収録2日目?3日目も、そして終了まで

子供のようにはしゃぎ、
喜怒哀楽に思わず涙がこぼれてしまう・・・まるで別人。

自分がさりげなく投げかける言葉を敏感に拾い上げて

その意味は・・・と、温めて考え続けている冨永愛。

妙なガードなんて少しも感じない、

冨永 愛は、人間味豊かな感情に溢れてくるばかり・・・・。

自分は収録の間、

壁塗りに挑んでいる冨永 愛の
    右斜め後方から、左斜め後方から
          見守るというような立ち位置にいた。

自分が見ているのは、

タップリと水を含んだ土に鏝をあやつった後の土の肌
それと、無心の心が、もしも折れてしまう手前のアシスト
           

気持ちいっぱいで、立ち向かってゆく彼女の眼を、斜め背後から見ていた。

刻々と本番が迫るごとに、
    子供のように笑う眼は消えて

感情をそのまま転化させた、
    矢のようなまっすぐな眼が、
          また別な一側面をみせて、
     

    ああ、いい眼だなあと思いつつ、
             上手く行けっと見守っていた。

ひとりの中に多面なギャップを持つ人は魅力的だ

その心は繊細かつ大胆
     

けれどそのぶん、
    消耗し削れゆく不安を
         併せもつようにも思える。

しばらくすると、突然ふっと頭に浮かんだ。

そうだ、冨永 愛はレンピッカ
       ・・・クールで官能的、自由で情熱的

そのギャップのなかに、

もう一つ別の扉を開ける勇気、
     自分の人生をつくり出したいという
                まなざしが感じられて、

それがとても刺激的に感じられ、

ときおり見せる笑顔の素朴さや
     感受性の豊かな女性らしい部分など、

そのギャップが・・・なぜか自分にレンピッカの絵を連想させる。

3月26日、東京渋谷、NHKでのスタジオ収録を経て、
               収録はすべて終了した。

今回の冨永 愛と職人社秀平組の
        収録はわずか数日であったものの

冨永 愛を通して、

なにか自分達がおぼろげに描いている未来とは、全く違う

       これから先の別の未来への扉が、
                自分達にもアルカモシレナイ。

              そう思わせてくれるような出会いであった。