左官とは、

土やセメントや石膏を主な材料にして
      築の外壁や内壁、土間などを塗る仕事である。

ところが自分の左官は、
   いっぷう変わったというか、
          意外な進化を続けている。


それはまず、
飛びっきりの【 一枚の塗り壁 】から始まった……。

左官は、

土を塗っているものだと、
    ほとんどの人が認識しているけれど、
               実は水を見ている。

水と土、砂、セメントなどを
        いい塩梅で混ぜ合わせて、

陽の光や風や湿度や
    乾燥状態によって、
           
        絶えず変化してゆく、
            ≪水の引き具合≫の状態を見ながら、

               下塗り、中塗り、上塗りと重ねていく。

たっぷり水分を含んだ塗りたての壁。

土の中に混ぜ込んだ藁や砂の
     かすかな粒が落ち着いてくると、
           壁でありながら息づいて、

           そこに奥ゆかしい【 表情 】がうまれてくる。

・・・・いい壁ができたなぁ・・・・

       俺たちは皆満足げにうなずいている。

じゃあ次は、
  この飛びっきりの壁で、
      ひとつの部屋の四方全部を塗ったなら

何とも言えないやわらかな【 空気 】ができると思わないか?

                      と、一段階進める。

・・・・すると、そうかあ、と分かってくる・・・・。

第二段階を試してみよう。

今度は、四方だけじゃなくて
   天井や土間も塗って内部空間を包み込んだなら、

         きっと人が驚くような空気が生まれる違いない・・・

それはこれまでにない新しい【 空間 】として
               俺たちの心をときめかせた。

ある時・・・・

工業パネルばかりになってしまった家並みに息がつまり、
                 ヨシ!と第三段階に挑戦する。

やっぱり外壁は貼るんじゃなく、
        塗りくるまなければダメだ!

大きな外壁をぐるり塗りあげて、
         遠くから眺めてみると、

     それはどっしりと根を張った【 建築 】となっていた。

・・・・・そうかぁ、・・・・・

左官は建築を確かな存在にできる仕事だったんだ
                  そう、あらためて気づかされる。

そんな確かな感触に、
   もっといい存在とは? 
         を考え続けていた。

・・・・だったら、玄関先の石組や、
          アプローチのテラスだって、
            建物を取り囲む塀や門柱だって、

                   左官ならばすぐ出来る!

今度は、自然石を微妙に組み合わせた庭づくりに
               取りかかることにした。

そこには、

空や、背景にある山々や、
   うっすら化粧をした雪景色に溶け合っている
      【 風景 】に進化している左官があった・・・・。

    ・・・・風景をつくる、風景の一部なんだ・・・・

そのうちに、
   自分は仲間たちに
       こんな訓示をするようになっていた。

俺たちの塗り壁は、
   土と水と光、この三つを微妙に感じ取って、

         自然と折り合いながら作っているわけだから、

山野草を植えたり
   育てたりすることや、

畑で野菜を作ることは、
   違うといえば違うかもしれないが、

でも心持ちは
     そんなにたいした変わりはないんじゃないか……。

考え方が一気に進んで六段階に突入した気分である。

これからは自分たちに出来る範囲の
        自然との関わりすべてを
              俺たちの左官と考えよう。

実は、10年前から、
大正時代に建った小さな洋館を譲り受けて解体し、

手つかずの雑木林
2000坪の中に自分たちの手で移築する、
              そんな夢を続行中。

鬱蒼と広がる熊笹を刈り取ったり、
     樹を倒して地ならしをしたり、

樹林全体に自然な石組みで
       散策路を作ったり、
          山野草を植え込んだりしている。

「里山」という昔の暮らしの知恵が
           再評価されているが、

自然と人間の調和の中に身を置いていると、
         なにより自分自身、気分がよくなる。

ただ自然であればいいのではなく、
        そこに人の手が加わってできる風景。

      この風景こそが【 もてなし 】ではないか、と気づいた。

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さてさて・・・・・・・・・・・・・・

いつしか自分は、ゆっくりゆっくり作り続けている。
       館が完成した時の、もてなしを考えるようになっていた。

ゲストを招いた音楽の流れる
      晩餐の夜を想像して、
          胸躍らせることもある。

案内をする、道すがらの草花や、
    おしゃべりの意味までをも連想して、

            そんな日が訪れるのを夢見ている。

あるとき、ふと、もしも・・・

もしもここに
   病をもった人を
      招いたとしたらどうだろうか、と思った。

自分がそうであるように、

もてなしの風景がその人をなぐさめ、
            力づけるとしたら、

それさえもが、自分の左官だと言えるのではないだろうか?

今、次なる進化の段階の左官キーワードは【 もてなし 】

まだ完成にいたらないこの洋館は、
        自分が師と仰ぐ詩人から
           「歓待の西洋室」と名づけられた。

ホスピタリティという言葉から

想像されるイメージは、
    けして左官と遠いものではないのかもしれない。

つまり、左官は病院やホスピスともけして
              遠くないとしたら、

人をもてなし、
   癒すことのできる空間と景色は、
         想像を超えた力をもっているのではないか。

職人社秀平組は・・・・固い左官という言葉で
              世の中に認知されているけれど

我々は、

自然石を積み重ねてもみたい
     植物だって植樹だって俺達流に植えてみたい
        小さな書斎を取り囲む路地やせせらぎだって作ってみたい

変革と転身。
        我々は【 左官、メタモルフォシス 】になりうるか?