黒く煤けた梁のたわみ
生あたたかな中庭からつづく
くすんだ土間の旧家の片隅。
折り重なった深いひさしの影の下で
丸い籐の椅子に腰かけている
誰もいない土間に置かれた
スピーカーのピアノの音と
古井戸をかしめた錆びた鉄。
なんという静かな陽ざし
なんという静かな影
土間に映る、
光と影を分けた一本の境界線に
自分を忘れるような時間が流れていた。
繰り返している
無人の鍵盤のひびきに
自分を忘れている時間が流れていた。
ひとつ、またひとつ
響く静けさのなかで
痛さと、息苦しさに
引きもどされて気づく
籐の椅子に腰かけている
古井戸をかしめた錆びた鉄を見ていた自分。
光と影と、ピアノの音・・・・
旧家のひさしの昼下がり。