館の完成の夢を見つづけて

雨あがりに立った砂を
ザクザクと新しい靴音をたてて踏み
まだ、水滴を乗せた草を、
いつものように眺めている

夕べ見ていたのは、
月に照らされた鼠瓦の重く沈んだ影


この雨は夜明け前・・・
声にならないひとりごとをつぶやいている

強いひかりが射し込みだした午前

濡れた岩は、より固くしまって黒さを増し
空の青さが、遥か遠くに離れてゆき
地表の影が、みどりがかってゆれている。

願いが、まぼろしと、この今とを入れ替えてしまうのか?

瞬間の、
わずか身体が浮き上がる鮮明さに首を振っている

ここで、夢を見はじめたのは10年前。
ひとり、きれぎれに漂う気配を繋いできた

無限の空からの
ひかりの角度を一点に
全身受けておぼろにいると
朱の窓格子が錯覚、眼から背中に焼きついて

休まぬ眼が、いつかの未来へ眠らないのだ。

疲れと、喜びが覚醒する中で

望みに近づいているこの今が
        あまりに自分と遠く感じられ

いちだんとまぶしく照りつける太陽と
        くさりのような蝉の音に埋もれてしまう。

無数に走る、見えない角度の気配におびえて

夢に近づくとは、仕組まれていたということ?
仕組まれた視線に動かされただけだったのだろうか。

本当の自分はどこにあるのかと見失い

いったい誰と
    すり替わってしまったのかと立ち尽くしている。