雨に開いたつぼみ
うつむいたサクラのしずく

降りつづく雨の
稜線を這う霧をむこうに
サクラを見あげ濡れている


その空は
鈍く響く層が
幾重にも重なり揺れて降る
灰色の響き

私はサクラのしずくに濡れている

冷たい春の長雨

ずっしりと重くなった上着からは
この身体に、与えられている命を感じ

ああ、この空よりも重く
灰色雲よりも、湿った息を吐きながら

この故郷を去ろうかとなげき
それでも信じている自分への怒りは
また、音なく割れるガラスの幻想を見る

雨に打たれ、
  散らされたサクラ

草の上、水滴を抱えた花びらも
水たまりを埋めた、しずくのサクラも
重なりあって色濃くなると、

暗い夕暮れに透けて
暗い夕暮れに溶け
暗い夕暮れに消えていた

なつかしい記憶は、この地から薄れて遠く
陽のひかりは、ただ苦々しさを焼きつける
とりはらえないものが、また眼の奥にひとつ住みつく

雨があがると
  雲の切れ間の星の下には
     最後のサクラが、くつ跡に青く砕けていた

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その枝は悲しくしげり

けれどこの空の何処かを信じて

すべて二重の風景に
まことの言葉は失われ

さがしものは、この純情のなかにある。